YOTA Japan では、令和3年7月1日付で募集のあった「『デジタル変革時代の電波政策懇談会 報告書(案)』に対する意見募集」に対し、同8月2日付で以下の意見を提出しました。


〈趣旨〉

「デジタル変革時代の電波政策懇談会 報告書(案)」(以下『報告書』)内の「アマチュア無線を活用したワイヤレス人材の育成」について、その内容に全面で賛同申し上げます。また、10代・20代を対象としたアマチュア無線を通じた人材育成プログラムを行っている団体として、これまでの活動を踏まえた知見から、免許制度の改善やアマチュア無線の社会価値向上に向けた取り組みを提案いたします。

〈詳細〉

1. 21世紀型人材育成におけるアマチュア無線の有用性

特に若者(この意見書では「15歳~25歳程度の者」を言う)を対象にした人材育成と、アマチュア無線の親和性の高さは、ここ10年で急速に世界的に見直されつつある。2011年に欧州で始まり、2014年に国際アマチュア無線連合(IARU)の第一地域委員会(R1・ヨーロッパ・中近東・アフリカ・ロシア等を含む地域)の公式プロジェクトとなった Youngsters on the Air (YOTA) は、その世界的ムーブメントの立役者である。米国においては、若者への取り組みのみならず、ヤング・アダルト層への取り組みも盛んである。アマチュア無線を通じた人材育成というテーマの重要性は、今や世界各国の共通認識となっているところである。

2021年6月に、アマチュア無線に関するSWOT分析が、IARU R1 のウェブサイトに掲載された。これは、同委員会で同年3月より始まった「アマチュア無線の未来に関するワークショップ」において議論された内容の一部である。

これによれば、「Opportunity」(機会:アマチュア無線による貢献が期待できる社会課題等)として、STEM教育(或いはSTEAM教育に拡張することが出来ると思われる)が挙がっている他、アマチュア無線コミュニティを(その定義に従って)「無線技術に対する個人的な興味により自己訓練や技術的研究を行っている人の集まり」と見れば、アマチュア無線コミュニティ自体がタレントプール(雇用する側から見た、スキルがあり是非とも雇用したい人材の集まり)として機能しうる、ということを指摘している。

ここでは、SWOT分析における「Strength」(強み:アマチュア無線の特長、長所、活かすべき点)を踏まえ、人材育成に対して、アマチュア無線がどのように活用できるのか列挙したい。

アマチュア無線の強みとして、以下が考えられる。:

  • 一定の免許制度の下、無線技術の実験・研究に使える周波数領域が公的に確保され、免許を超えない範囲でのその自由が保障されている;
  • 最新の技術情報や、先人による経験(先行研究)の多くに、比較的自由にアクセスできる;
  • アマチュア無線家(研究者)間のコミュニティは比較的開かれており、またその繋がりは強い傾向にある;
  • アマチュア無線の技術的な側面を見れば、ハードウェア・ソフトウェア・通信 と、IT技術における大きな3つの要素が揃っている;
  • 無線工学・電気工学のみならず、その周辺領域や社会学的領域をも巻き込んだ、著しく学際的なコミュニティである;
  • 電波における通信上にのみならず、インターネット上や対面の場においても、「Ham radio」というキーワードで世界中のアマチュア無線家たちと繋がることが出来、国際交流の良いきっかけを与えている。
  • これら特質を持ちながら、アマチュア無線は一般には「趣味」、すなわち遊びとして認知されており、他の研究コミュニティに比較して参入障壁が著しく低い。

従って、アマチュア無線は、非常に幅広い分野の集合でありながら、「アマチュア無線」というキーワードだけで容易にその国際コミュニティへ参入することができ、自由な実験・研究・試行錯誤を通じて「遊び」の中で自らのスキルを磨くことができるという、比較的稀で有用な枠組みであると捉えることが出来る。

人材育成ないし教育という観点にてポイントとなるのは、その分野は決して無線工学・電気工学等に限られていないことである。

たとえば、YOTAの取り組みにおいては、若者自らが企画運営の中心となり、参加する若者とさほど歳の離れていない若者がリーダーとして指導にあたるなどして、現代の若者の考えや興味の対象に合わせた企画づくりを行っている。その狙いは、若者に主体性を与えることで、企画に参加する・教わる側のみならず、企画を作る・教える側自身のスキル向上をも図るというものである。そこでは、企画を立案し運営する、活動をSNS等を用いてPRする、母語の異なるメンバー間で英語でコミュニケーションを取る、活動を紹介するプレゼンテーションをする、など、国際化・ボーダレス化の進む21世紀において、若者の将来にとって非常に重要なスキルの数々が養われる。すなわち、ビジネスにおいても通用するような多様な21世紀型スキルを、アマチュア無線というある種の「遊び」の中で身につけることができるのが、非常に重要な点である。

以上の考察より、アマチュア無線の活用は、STEM各分野を中心にした非常に多岐に渡るテーマにおいて、人材育成ないし教育の観点で極めて有効であると考えられる。

と同時に、すでに世界中で行われつつあるものの、日本においても、アマチュア無線を活用した人材育成プログラム・教育プログラムの研究・開発と実行が、急務であると考える。

2. 人材育成の観点から見た我が国におけるアマチュア無線の弱点とその改善提案

アマチュア無線を用いた人材育成プログラムの効率的な実行のためには、先に引用したSWOT分析における「Strength」(強み)領域の強化はもちろんのこと、「Weakness」(弱み;アマチュア無線の内部に抱える課題点)領域にあるいくつかの問題点の克服も必要である。その中でも、特に法整備・改正が必要な部分として、本意見書では次の4点について提案する:

  • 免許制度の全体設計の見直し
  • 従事者免許のクラス設計の見直し
  • 相互運用協定の拡充
  • 資格未取得者による運用の制度改正

〈免許制度の全体設計の見直し〉

我が国のアマチュア無線界における課題として、複雑な無線局免許制度の簡素化の必要性が叫ばれているものの、一向にその実現が達成できていないのは、極めて残念なことと言わざるを得ない。

海外諸国、特にほとんどの先進国では、アマチュア無線にはその周波数割り当て範囲内と最低限のスプリアス等規制の下での技術的実験・研究の場としての自由と、アマチュア無線家が自己訓練・技術的研究を行うための自主性が認められており、いかなる無線機・通信方式であってもすぐに実験することができる。こうして公的に保障されたアマチュア無線の自主性が、21世紀のSTEM人材、IT人材を生み出す豊かな土壌を作り出している。

これに対し、我が国の免許制度は、アマチュア無線に本来備えるべき自由と自主性が軽視されているとの誹りも避けられないような,前時代的なものと表現せざるを得ない。特に、技術人材の育成という観点からすれば、例えば、自作無線機を開発して運用しようとする際や、コンピュータと連携した新しい通信方式の実験を行おうとする際、我が国ではたとえアマチュア無線における最上級資格である第一級アマチュア無線技士資格保有者であってもそれを直ちに実験することが許されず、数ヶ月から半年以上も要する無線局変更申請を経なければならない。さらに、僅かにその仕様を変更する度に、同様の申請が必要となるケースすらある。

このような環境の中では、アマチュア無線を用いた技術的人材育成が容易に達成可能とは考えにくい。一刻も早く、21世紀型の新しいアマチュア無線に適合した免許制度の策定が必要である。

具体的には、無線局事項書における工事設計書をアマチュア局にあっては省略することとし、無線局免許状における指定事項としては空中線電力、周波数および電波形式はその資格で運用可能な範囲を一括で指定するものとすることを提案する。これは決して過激な権利主張ではなく、国際的に広く認知されたアマチュア無線の自主性に基づいた、多くの国ですでに採用されている制度であるため日本での展開も検討可能であり、21世紀型人材育成を是としたアマチュア無線の構築には不可欠なものである。

また、別の問題として、アマチュア無線に出会って興味を持った人が、アマチュア無線コミュニティにおけるアイデンティティたるコールサインを持ってそのコミュニティに参入するまでのプロセスが非常に複雑で、ひとつの大きな参入障壁になっていることが挙げられる。資格取得のための学習時間を差し引いても、資格試験申し込み、試験受験、合格通知郵送受け取り、従事者免許申請、従事者免許郵送受取、無線機の購入と開局申請、無線局免許郵送受取、と、数ヶ月以上という長い時間が掛かってしまうのが我が国での現状である。

一方で、ボランティア団体によって資格試験の行われている米国では、当局との連携によって最短1週間程度で電子的に免許が発行され、コールサインを得ることができる。

我が国でも無線局免許状を含む各種郵送物の電子化をはじめ、試験実施団体と総合通信局との連携強化等によって、免許取得プロセスの簡素化と効率化を図るべきと考える。

また、アマチュア無線技士資格試験においても、このコロナ禍において、英国や米国ではCBT(computer based testing)を用いたリモート試験がアマチュア無線資格試験に導入され、急速な利用拡大を見せている。我が国においても、日本無線協会が第四級アマチュア無線技士においてCBTを試験的に実施することを発表している。資格試験のCBT化は、免許取得プロセスの効率化に大きく寄与し得るものであり、今後の拡大に期待するところである。

〈アマチュア無線による社会貢献活動と、無線従事者資格のクラス設計の見直し〉

2021年3月10日の電波法施⾏規則改正により明文化されたアマチュア無線による社会貢献活動について、未だ一般社団法人日本アマチュア無線連盟よりガイドラインが公表されておらず、その利用も未だ活発ではないものの、既存のアマチュア無線との電波利用に関する摩擦がその改正案の公表依頼長らく懸念されている。また、ドローンのFPV映像伝送にアマチュア無線に5.6GHz帯 ATVが用いられるようになって久しい。

こうした背景から、今後のアマチュア無線界における通信、電波利用は、大別して、

  1. 社会貢献活動、ドローン等で、通信手段としてアマチュア無線を利用する立場
  2. アマチュア無線での通信を本質的に用いて、技術的研究・実験を行う立場

という、まったく異なる二つの立場に乖離していくことが予想される。また、施策者側には、これら二つの立場を共存させるための政策が求められているといえる。

 

 そこで、その一案として、アマチュア無線技士資格のクラス設計の見直しを提案する。すなわち、「技術者・研究者」の立場と「利用者」の立場を従事者資格のクラスおよび発給されるコールサインによって分離し、電波利用の上でも明確な境界を与える。また、利用者の立場を、将来の技術者・研究者へ繋がる「裾野」として捉え、技術的人材の間口を広げるとともに、社会貢献活動等での利用を活性化してアマチュア無線の社会価値向上を図る。一方、技術者・研究者の立場の者、特に上級資格者に対しては比較的自由度を高めるために「特権」を与え、実験・研究を容易にしてアマチュア無線を通じた技術的イノベーションがより起こりやすい環境を創り、また人材育成プロジェクトや実験プロジェクトをリードするべき立場の者としての権限を与える。

 ひとつの具体案を以下に示す。この案では、現行の四クラス制(第一級~第四級)を、三クラス制に改める。なお、下記の各資格案は必ずしも現行の資格との包含関係がつくものではないため、資格試験の内容変更を妨げず、既存資格からの読み替え(平行移動)の是非については議論の余地がある。

  1. 上級資格 …… 本格的な技術者・研究者のための資格
     CEPT (欧州郵便電気通信主管庁会議)勧告 T/R 61-02 に規定される HAREC(Harmonized Amateur Radio Examination Certificate)に準拠し、また海外の相当資格として米国 FCC(連邦通信委員会) の Amateur Extra に対応する。許可されるすべてのアマチュア無線設備の操作・運用が許される。
     この資格の保有者は、技術・工学・科学に対する自発的な興味を十分に持ち、またアマチュア無線を用いた実験・研究を行うにふさわしい十分なスキルと開発力、創意工夫の力を持つことが求められる。また、それによって、この資格の保有者は、そのスキルと経験を以て、アマチュア無線を用いた実験プロジェクトや人材育成プロジェクト、教育プロジェクトを牽引する立場となることが期待される。
     従って、この資格の保有者には、次のような「特権」を与える:
    • 新たに使用しようとする無線設備について、この資格の保有者によるアマチュア無線局は、技適制度や保証認定制度に依らず、その電波の質を自己の責任において確認し、特別の申請なしに使用することが出来る。
    • この資格の保有者が設計、製作および試験した送信機について、その周波数範囲および空中線電力の無線設備の操作を許されているアマチュア無線局(下記『下級資格』の保有者によるものを除く)は、当該送信機をアマチュア無線のために用いる場合に限り、技適制度や保証認定制度に依らず、特別の申請なしに当該送信機を使用することが出来る。また、この制度は、この資格の保有者が設計、試作および試験し、再現性を確保した上で頒布された製作キットを、他の者がその設計に忠実に基づいて製作した送信機についても準用する。
    • 資格未取得者の運用体験について、この資格の保有者の監督下においては、体験させようとする局の種別や資格未取得者の年齢等の要件に関わらず資格未取得者の運用体験を可能とする。また、下位資格の保有者も、この資格の保有者の監督下においては、上級資格相当の操作を行うことが出来る(ただし、上級資格者のコールサインを用いる)。
  1. 中級資格 …… 技術・工学・科学を学ぶ者のための入門資格
     CEPT ECC (Electronic  Communications  Committee) 勧告 (05)06 における  CEPT  Novice Radio Amateur licence に準拠し、また海外の相当資格として米国FCC の General に対応する。現行制度における第三級ないし第二級アマチュア無線技士程度の操作範囲を有する。
     この資格の保有者は、技術・工学・科学に対する自発的な興味を持ち、またアマチュア無線を用いた実験・研究によって技術・工学・科学を学ぶ者である。また、アマチュア無線を用いた実験プロジェクトや人材育成プロジェクトに主体的に参加することが期待される。

  2. 下級資格 …… 通信の手段として利用する者のための通信士資格
     新設。各種無線技士資格における「○○特殊通信士」の、アマチュア版とも言える資格で、社会貢献活動やドローン等における通信利用者を対象とした資格である。
     操作範囲は、20W以下の144MHz帯・430MHz 帯 および 1W 以下の 1200MHz 帯以上とし、周波数帯の中でも使用する周波数範囲が限定される。ただし、モールス符号による通信や、付属装置をつけて行う通信は、操作範囲から除外するものとする。また、上級資格(上記)の保有者が設計、製作および試験した送信機であっても、上記「特権」の対象はならず、その使用にあっては技適制度や保証認定制度に依らなければならない。
     資格取得にあたっては、講習会の受講とその修了試験の合格を要件とする。アマチュア無線を利用するにあたっての運用ルールの徹底が目的である。また、資格の有効期間を3年間とし、更新講習の受講を以て資格の更新を認める。この更新講習は、令和2年12月の無線従事者規則が改正によって、免許証の交付を受けた者(無線従事者)は、最新の知識及び技術を習得する努力義務が課せられたことを、背景とするものである。すなわち、上級・中級(上記)の資格保有者は、その資格の性質上、最新の知識及び技術の習得は自発的に行われることが前提であるのに対し、この下級資格の保有者は必ずしも最新の知識及び技術の習得が自発的に行われないことが予期されるからである。
     この資格の保有者の開設する無線局に割り当てるコールサインは、既存のアマチュア局のコールサインや、上級・中級(上記)の資格保有者に割り当てるコールサインとは異なる割当を行うべきである。なぜならば、有効期間が有限かつ限られた周波数範囲のみ許可されるという性質上、アマチュアによるアマチュア無線の自治という観点から、他のアマチュア局とは通信上明確に区別されるべきだからである。なお、資格によるコールサインの割当規則の区別は、国際的には珍しいことではない。たとえばオーストラリアでは、Advanced, Standard 有資格者には5~6桁のコールサイン(VK#***)、Foundation 有資格者には7桁のコールサイン(VK#F***)を割り当てている(ただし#は数字、*は文字)。

〈相互運用協定への締結〉

アマチュア無線を用いた人材育成プロジェクトを考える時、備えるべき大きな特長として、国際的であることが挙げられる。これは上述のSWOT分析における「Strength」のひとつであり、かつ21世紀型人材の育成において不可欠な要素でもある。

しかしながら、現在の我が国の制度では、海外からの来訪者が自国の免許をもとに運用することが出来ず、国内既存局のゲストオペレーターとして運用するか、新たに日本で無線局免許を申請・開局するしかない。しかし、前者の場合、一般に、自身の運用実績としては記録に残らず、また後者はほとんどの場合難易度が高く一般的ではない。
 たとえば前述の YOTA においては、年一回の世界大会「サマー・キャンプ」が行われており、全世界から10代・20代の若者が一箇所に集結する。この際、若者は自国の、自身のコールサインで自身の無線機を運用することが出来、これが参加者同士の国際交流の一助となっている(※ただしコールサインには運用地のプリフィックスを前置する決まりである)。我が国でも、たとえば一般社団法人日本アマチュア無線連盟が主催する「アマチュア無線フェスティバル」(通称ハムフェア)では近隣諸国はじめ世界各国から来訪者があり、また YOTA サマー・キャンプのような若者を対象にした国際イベントの開催も今後十分に可能性がある。こうしたイベントで、アマチュア無線を通した国際交流を後押しするため、相互運用協定として国際標準となっている CEPT 勧告 T/R 61-01 に定める相互運用協定の締結を、強く要請する。

CEPT 勧告 T/R 61-01 の相互運用協定の締結により、海外からの来訪者のみならず、日本国内のアマチュア無線家が、CEPT 勧告 T/R 61-01 を締結している外国へ出向いた際も、同様に、日本のコールサインに基づいてすぐに運用できるようになる。このこともまた、アマチュア無線を通じた国際交流、ひいては国際的人材育成を後押しすることに繋がると考えられる。

〈資格未取得者による運用の制度改正〉

2021年3月10日の電波法施⾏規則改正によって、学齢児童生徒(小中学生)のアマチュア無線交信体験機会が拡大され、保護者や学校の教諭の監督下においては臨時局の開設に依らない体験が可能となったことは、喜ばしい改革と考える。

一方で、すでに米国、英国はじめ多くの国では、特別な局の開設や、年齢等の制限なしに、有資格者の立ち会いのもとで無資格者が運用できるという制度が確立されている。先述したYOTAプログラムでも、こうした制度を活用した人材育成プログラムが実施されているものの、日本の法制度上の障壁から、日本でその通りにプログラムを展開することが難しい現状がある。科学に対する知識・素養のある高校生、大学生、高専生、またヤング・アダルト層への人材育成プロジェクトの設計を考慮すると、資格未取得者による運用の制度の更なる拡充が必要と考える


参考: