ゲスト LY2EN Simonas Kareiva さん (リトアニア)

The youth representative of Lithuanian amateur radio society (LRMD)
A former president of LRMD (2016-2018)
聞き手: JF1XMN 深井雄介 JR2KHB 須田璃久
※このページのいちばん下に,インタビュー音声(英語)へのリンクがあります.

―― まずはじめに,自己紹介と,アマチュア無線の経歴を教えてください.

こんにちは.Simonas Kareiva(シモナス=カリーバ)です.サイモンと呼んでください.リトアニアのヴィリニュスから来ました.コールサインは LY2EN です.

私のアマチュア無線趣味の経歴ですけれども,実はオリエンテーリングがきっかけだったのです. オリエンテーリングの中でアマチュア無線の楽しみを知りまして,アマチュア無線をやってみることにしたのです.ところが,アマチュア無線の方にのめり込んでしまって,オリエンテーリングの方は今ではすっかり忘れてしまいました.これだけの短いストーリーです.だいたい10年前,2009年ぐらいのことです.


―― 番組を聞いている方の多くがリトアニアの事を知らないと思いますから,少し説明をしていただけますか.

「リトアニアはどこにあるのか?」と,皆さんいつもそうお尋ねになるので,まずリトアニアの位置から説明しますね.まずここに日本があって,そして大きい国ロシアがありまして,その隣がリトアニアですね.日本から見るとロシアを挟んだ反対側になります.旧ソビエト連邦の国のひとつですが,そのなかで最も早く独立を宣言した国です.1990年3月11日でした.

気候は日本に実は近くて,ただ国民は日本人ほど礼儀正しくはないですね.人口は300万人ぐらいです.有名な都市はヴィリニュス,カウナス,クライペダ.クライペダは港町で,カウナスは中部の都市です.それからヴィリニュスが首都になります.

リトアニア語というのはインド・ヨーロッパ語族に属していまして,ですからインドがルーツじゃないかと思います.ラテン系の言語や,ロシア語などのスラブ系の言語ともかなり違っています.言語としてはかなり古い言葉ですので,東ヨーロッパでの1000年前の会話の様子を知ろうと思ったら,現代のリトアニアで人々の会話をお聞きになると雰囲気がつかめるのではないかと思います.

―― リトアニア語で,たとえば,「レポートは59です.お声がけありがとうございます.私の名前はサイモンです」と言うには,どう言うんですか.

(リトアニア語) Penki devyni girdžius Garliavoje puikiai. Mano vardas Simonas, Simonas. Šaukinys yra Lietuva Ygrekas du Eglė Nijolė, Lietuva Ygrekas du Eglė Nijolė, Lima Yankee 2 Echo November, over. (Garliavoje(町の名前)にて 59 できれいに聞こえています.私の名前はSimonasです.こちらは LY2EN,LY2EN,どうぞ)

―― いやあ,かっこいいですね.他のヨーロッパの言葉とは全然違うんですね.

実はラトビア語が唯一,兄弟関係にある言語です.ヨーロッパの南東部の国々は,だいたいスラブ系の言葉ですね. 私の妻はポーランド人なのですが,私はポーランド語は全然分かりません.彼女がいつもうまく訳してくれています.一方,北欧の国々の言語を考えますと,フィンランド語やエストニア語がありますが,これらは語族からして全く異なります.ですからこのバルト語派のファミリーと言いますと,やはりラトビア語とリトアニア語というのがたった二人の兄弟,ということになります.


―― 次に,サイモンさんの今回の日本へのご旅行についてお伺いしますが,なぜ日本へお越しになったんですか.

実は私の父親が化学の専門で,リトアニアのヴィリニュス大学でここ10年教授をしています.いま,福岡の九州大学から招聘を受けまして,10ヶ月そこで研究をしています.つまり私の父親が福岡にいるので,それで我々の家族で訪れようということになったわけです.私の父は,我々の娘,つまり父にとっての孫が,生後10ヶ月の時にリトアニアを発ちました.その時考えたのが,数ヶ月後に我々の娘を連れて日本に行こう,そして孫がどれだけ大きくなったかというのを「おじいちゃん」に見せに行こうということで,日本旅行を計画したわけです.この後福岡へ火曜日に飛び立つんですが,すごく楽しみにしています.

それからジャパンレールパスというのを買いまして,京都・大阪・広島・長崎,といった歴史的な都市をめぐる予定です.しかしとにかく,福岡に数日滞在するというのが,いちばん大きな理由だと思います.

―― どんな日本の食べ物に挑戦したいですか.

実はこの質問については少し考えていました.日本には実に多彩な食べ物がありますね.友達にもいくつか訊いてみました. 日本に行ったことがある友達に「日本の何が良かったか」と尋ねますと,やはり「食べ物」と答えることが多かったです.

それで,私の家族が好むかどうかわかりませんけれども,実は挑戦してみたいのは生きたタコ,タコの踊り食いです.動いているタコと格闘しながら食べてみたいな,と.こういう踊り食いが日本ではあると聞いていますから,ちょっと挑戦してみたいと思っています.


―― アマチュア無線の活動についてお伺いしたいと思いますけれども,まずどのようなアマチュア無線の分野がお好きでいらっしゃいますか.

私のQSL カードをご覧になりますと分かるんですが,特にアマチュア無線の広報活動ですね.例えばレクチャーをしたり,デモンストレーションをしたり,といったことです.こういった活動はアマチュア無線を広めるのにとても良いですし,世界中と交流を深めることができます.

もちろん無線の運用もしています.あまりアクティブではありませんが,HFでの CW 運用,それから V/UHF も運用していました.特に衛星通信をよくやっていまして,リトアニアのサテライトプロジェクト「Lithuanica SAT」にも参加していました.

どんなアマチュア無線の活動でも 多くの人達に興味を持ってもらえるようなこと,例えば衛星とか,デモンストレーションとか,ものづくり,アンテナ作り,YOTA企画などもそうですが,そういったことをするのが大好きです.

―― 特にリトアニアの若手ハムの状況について興味があるのですが,リトアニアにはたくさんの若手ハムがいらっしゃいますか.

リトアニアの若手ハムの状況は,おそらく良くなっていると思います. YOTA がかなり良い効果を発揮してくれています.若手ハムたちを非常にアクティブに,元気にしてくれていますし,そしてたくさんの企画を打ち出してくれるので,周りの多くの人たちがアマチュア無線に興味を持ってくれるようになってきています.ですから,状況としては悪くないのだろうと思います.

例えば,300万人の人口のうち,900人か1000人ぐらいのアマチュア無線家がリトアニアにいます.数としては少ないでしょうが,75人がリトアニアのアマチュア無線連盟LRMDの会員になっていて,そして7人の理事のうち4人が30歳未満の若手です.これがリトアニアのアマチュア無線の状況ですから,それほど悪くはないのではないかと思います.

―― リトアニアにはサイモンさんと同じぐらいの年齢のハムがどれくらいいらっしゃいますか.ラフな質問ですが.

そんなにラフな質問ではないですよ.私はリトアニアの連盟の会長をしておりましたから,統計データを知っています.

ちょっと違った視点からお答えしますね.リトアニアのアマチュア無線家の平均年齢は,大体40歳から45歳ぐらいです.私は36歳ですから,ちょうど上がっていくカーブの途中,ピークの隣ぐらいですね.ぴったりピークではないですけれども.私が統計を見たときの平均がちょうど40から45ぐらい,たぶん今でも40から50歳の間だと思います.

ですので,「私のぐらいの年齢のハムがどれだけいるか」については,ピークのトップではないですが,この統計からどういう状況かお分かりになるかと思います.

―― 平均が40から45と仰りましたけれども,日本よりずいぶん若いですね.

そうですね.この統計は5年ぐらい前のものですけれども,現在は5を足して45から50になってるかもしれませんし, あるいは若い人たちが増えてこの数字をさらに引き下げているかもしれません.それは分かりませんが,概形として,同じような統計になっていると思います.

私は36歳ですので,統計からすれば同年齢のハムはそれほど多くはないということになりますが,近くの地域に住んでいる無線仲間もいますので,ひとりぼっちというわけではないです.

―― どうして40歳位という位置にピークができてるのでしょうか.高い年齢の方へひたすら向かっていくスロープではなくて.

実はエクセルの表の統計が,私のメールボックスのどっかにありますけれども,もし手元があれば,今正確な数字をお見せすることができるんですが…….そのエクセルの表を見れば,ピークとかスロープというのがちゃんと分かると思います.

私が思うには, 我々が携帯電話やインターネットを使うようになる前,1990年代や80年代に試験を受けた人達が,コールサインを継続しなかったケースが多いのではないかと思います.コールサインは5年で有効期限が切れてしまいますので.正確な統計を見ることができれば,もう少しきちんとお答えすることができると思います.


―― 次に,リトアニアアマチュア無線連盟(LRMD)の会長でいらっしゃった時の話を伺いたいと思います.実はあなたのようなお若い方が会長になられたということを聞きまして,非常に驚きましたけれども,こういうことはあなたの国では珍しいことですか.

LRMDでは,ボードメンバーの中に若手がいつも居るようにしています.会計の担当者は20代ですし,書記官は私と同じような年ですし,若手代表(Yooth coordinator)は30か35ぐらいです.ですから,実際それほど珍しいケースではありません. YOTA が非常にリトアニアで良い効果を発揮しているからです. ボードメンバーの中にも, YOTA を通じて育ってきた人が多くいます.私もその一人ですし,本当にYOTA のおかげだと思います.

そして,日本と比べますとリトアニアの人はあまりお互いを尊敬しませんね.つまり年配の人がこのボードメンバーを務めることが難しくなりますと,もちろん給料なしで働くだけですから健康であることが必要です.そう考えると,若い人が組織を運営していくのが自然なんですよね. 人の前に立つ機会も多いですし,改革を実行せねばならないことも多いでしょう. こういうことには年配の方々はあまり参画したがりません.また,若い人たちが年配の方に特別気を遣って,ということもありません.

一方で,年齢というのは一人一人を決めつけるものではありませんね.そして年齢によってその人のポジションが左右されるということもないはずです.仕事であっても,チームマネージャーや グループのまとめ役を若いうちに経験することもあります.

会長になったというのは,たまたまそういう機会が降ってきたと言うしかありません.他にやれる方がいなかったから,「わかりました,私が引受けます」,と申し上げたまでです.他の方にも,この2年間をやれるのはあなたしかいないと言われたものですから,OKと申し上げたのでした.

―― そうしますと YOTA というのは非常にあなたの国でも良い影響を与えているのですね.

リトアニアでは特にですが,YOTAというのは大きなインパクトがありました.

過去5年間,YOTA サマーキャンプにリトアニア連盟から参加者を派遣しました.昨年の南アフリカ大会では,5人のメンバーが参加しまして,最も大きなチームのうちの一つだったのではないかと思います.今年はブルガリアですが,3人の参加枠がすでにいっぱいになりました.参加枠が厳しくなっていく中で,なんとかチャンスを作り続けています. そして,毎年,参加経験のない人に参加してもらうようにしています.特にここ3,4年は,毎回新しいメンバーをYOTAキャンプに送り込んでいます.

―― リトアニアのアマチュア無線の状況は YOTA のおかげでかなり変わったのではないですか.

そうですね.ここでいう状況の変化とは,大きいコンテストのこととか,それから大きい局のことを言うわけではありません.

すっかり変わったのは,やはり若いアマチュア無線家が出てくるようになったこと,そして 国内版 WRTC にそういう方々が参加するようになったことですね.今年は, 9人か10人の参加者のうち,4人が若手でした.ですから, YOTA というのは,アマチュア無線へより多くの人を呼び込むのに,いい役割を果たしているんではないかと思います.

―― ところであなたが会長だった時に,一番良かった体験はなんでしょうか.勿論全てが有意義だったと思いますが,もし一つあげるとしたら何でしょうか.

そうですね.・・・すいません私の娘の叫び声が後ろに入ってしまっています.娘の名前はオリビアと言うんですが,「オリビア」というのを新しいデジタルモードの名前にしましょうか.それとも,オリビアを 「FT8」 と改名しようかな(笑)

それはさておき,会長を務めた時期,それからもちろん今もボードメンバーですが,一番良かった成果というのはやはり広報活動に多く携われたことですね. 特に YOTA のための広報ですね.リトアニア国内のメディアももちろん, Facebook や Instagram といったSNSも利用しました.これらの事はボードメンバーになる前はあまり経験しなかったものです. そしてこのアマチュア無線という趣味を,若い人たちに説明するのがどれだけ難しいことか思い知りました.アマチュア無線のことを,マスメディアやニュースサイト上で宣伝することには連盟は非常に前向きで,数多く経験しました.

今はもう会長ではありませんけれども,もし会長の座に戻ることができるなら,・・・やりませんよ,今は家族が第一ですので(笑)まだボードメンバーの一員ですが,こういった広報活動,そしてリトアニアのメディアに記事を書いたり,高高度バルーンプロジェクト,サテライトプロジェクト,SOTA,どんな企画もアマチュア無線の魅力発信,アマチュア無線を広めることにつながるのであれば,挑戦していきたいと思います.

―― 同じような努力をYOTA Japan の中でもやっていかなければならないと思います.あまり効果的な広報ができていないので,SNS をもっと活用しなければならないと考えています.広報の力,というのをもっと重視しなければいけません.

―― 今,「アマチュア無線とは何か」ということを若い人たちに説明したり,アマチュア無線が人々を惹きつける理由を説明するのが難しい,ということをおっしゃいましたが,上手い説明の方法について何かアイデアをお持ちでしょうか.よくあなたがおやりになる方法とか.

よく,デジタル時代に生まれた若い人たちに「アマチュア無線とは何か,説明してください」と頼まれるんですが,私はこういう時,少し違った観点からお話しすることにしています.最も基本的なところからお話をします.

地球という惑星が太陽の周りを回っていますね.この惑星は卵のような構造をしていて,大気と電離層があります.アマチュア無線家ならおなじみですね.そして外側から降り注ぐ有害な太陽光線を反射してくれていて,そして内側からは電波を反射するわけです.こんなような地学のことから説明を始めてみます.これはコミュニケーションの話ではありませんけれども,こういったことを理解する必要があります.そして,「じゃじゃーん,電波で遊べるようになったよ!」ということになるわけです.このようにして,特に若い方に向けて説明するときには,彼らの目を輝かせる工夫をしないといけないと思っています.

―― あなたは先ほど会長に戻ることができたら,と仰りましたけれども,まだボードメンバーでいらっしゃいますね.次にどんな事をおやりになりますか.

いま,IARU の 第1地域委員会の中での仕事が少しありまして,2017年の会議には出席しました. もう少しアマチュア無線に割ける時間があるのであれば,IARU の活動に参加していきたいと思います.特に先ほど言った広報活動ですね. IARUの広報のサポートを少ししたことがありますが,みなさんが広報に使っていただける良いネタを提供することができるんじゃないかと思っています.例えば  動画素材や,良い記事,読み物,ポスターであったりですね.このようなことを続けていきたいと思います. LRMD のボードメンバーにはアクティブな方が多いですし,もちろん可能な限り私もこのボードメンバーにいたいと思いますけれども,様々なメディアで広報を展開することを,確実に続けたいと思います.

―― もう一つ質問よろしいでしょうか.今日私はいつも「~についてどうお考えですか」という質問ばかりですが…….アマチュア無線の社会的価値を,この21世紀の世の中でもっと高めていくためにはどうしたらいいとお考えですか.

アマチュア無線の社会的価値ですね. 色々なことが急速に変わっていくような世の中ですね.それらについていかなければなりませんが, もちろんこういう価値を与えないことにはアマチュア無線は生き残っていかないと思います.なぜならみなさんお忙しいですね,特に若い方は.

例えば典型的には,学校に通っている学生さんたちは.学校の後に(ボーイ・ガール)スカウト活動やダンスがあったり,絵を書いて,またダンスをして,ヨガをして,スカウトをやって,とにかくたくさんの活動をしています.そして,高い社会的価値があるものが彼らに選ばれているんですね.もしアマチュア無線にこうした価値がなければ,若い人の中では,ヨガとかダンスとかの間に埋もれて消えていってしまうでしょうね.

―― 日本でも同じような状況ですね.子供達は学校の後に塾に行かなければならなかったり,ピアノレッスンがあったり,スイミングスクールがあったり,たくさんのやることがあります.ですからこのような活動の中でアマチュア無線というのがひとつの選択肢になるようにしなければいけないですね.

そのとおりです.私はこれから多くの学校の物理や地学教員の方々とコラボをしようと考えています.まず先生方に免許をとってもらって,そして学校に無線局を開局してもらいます.生徒が放課後に30分だけ時間があれば,その間に先生の助けを借りながら生徒がアマチュア無線の交信をすることができますね.

ただ先生方の負担が重くなってしまうのが問題です.他の仕事も大変ですから,こういうことに時間を割いてくださるかは分かりません.ただ学校から始める必要があると思いますし,やはりその場合には先生から免許を取ってもらうというのがいちばん良いと思います .


―― 最後の質問をいたします.日本の若い皆さんにメッセージをお願いします.

メッセージですね.“Don’t be afraid of change.” アマチュア無線が変わっていくことを恐れないでください.そしてコンピューターやデジタル技術,身の回りにある色々な事とアマチュア無線が統合されていくことを恐れないでください.そういった変化や統合は,見方を変えれば,アマチュア無線の別の楽しみ方が生まれた,ということでもあります.アマチュア無線自体が変わらないことには,次の100年,アマチュア無線が生き残ることはできません.ですから変化を恐れないでください. FT8とか……, FT8に限りませんが,まあ色々なことがあります.

例えば,ラテン語というのは,もう言語としては死んでしまいました.なぜならラテン語は変わらなかったからです.しかしスペイン語やイタリア語といった,多くのラテン系言語は生き残っています.それらは変わっていったからです.アマチュア無線も同じ状況にあると思います.変化すること,そして適応していくことが必要です.

そうすれば次の世代,そして我々の子供たちがアマチュア無線の恩恵にあずかることができるでしょう.ただし,我々が変わっていって,そして新しい技術を追いかけて行けば,のお話です.そうでなければアマチュア無線は終焉を迎えるでしょう.ですからどうぞ変わることを恐れないでください .

―― ありがとうございました!

2019年6月16日,東京都内にて収録
2019年7月14, 21日『ハムのラジオ』で放送した内容を,加筆・修正後,許可を得て再公開

インタビュー音声(英語)はこちらから!